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☆★☆ 農業集落カードの魅力B ☆★☆

 統計利用についてのTipsやお奨めの統計データをご紹介するコーナーです。
 

 今回は農家数指標を個別にみていきたいと思います。今回は、直近のもので2000年世界農林業センサス・農業集落カードを例にして解説します。
 農家数の指標には、総農家数や販売農家数など総量(また調査の客体数)のデータがありますが、一方では、主副業別農家数や専兼業別農家数、経営耕地面積規模別農家数、農産物販売金額規模別農家数、農業労働力保有状態別農家数など多種の分類別農家数があります。これら の集計結果から地域農業の担い手を捉えることができます。なぜ多種の分類があるのかといえば、前回ご紹介したケースのように地域の農業生産構造は、総量だけでは把握できない様々な状況が絡み合っている からです。
 さて「地域農業の担い手」はどう把握するのでしょうか。地域農業の担い手は、昭和36年の旧農業基本法のもとでは「自立経営農家」という考え方で政策が進められてきましたが 、それから約10年たった時点では「中核農家」という考えが打ち出されました。平成に入ってからは「新しい食料・農業・農村政策の基本方向」(平成4年)で「効率的・安定的な経営体」という概念で、これまでの農家の所得対策を中心とした担い手対策から経営体の育成対策に移行してきたことにより「担い手たる農業」の概念も変わってきました。この流れはその後の食料・農業・農村基本法(平成11年)の制定を受けて策定された「食料・農業・農村基本計画」(平成12年)でも引き継がれ、「効率的かつ安定的な農業経営」の育成がうたわれてきました。しかし、農林業センサスのデータでは、『これが農業の担い手です』という指標(これが一番知りたいんですが・・・)では表していませんので見方を工夫する必要があります。センサスでは様々な視点から「担い手」を見ることができるように多種の農家分類データがありますので、このデータの中から「担い手」を地域の実情にあわせて見ていくことになります。

@経営耕地面積規模別農家数(経営耕地面積規模別分類)
 経営耕地面積は、土地利用型農業の経営規模を見ていく基本的な指標です。企業でいえば企業の規模を判断するために資本金額が使われますが、それに相当するものです。センサスでは「経営耕地面積規模別分類」という 集計がこれに該当します。
 そこで、「経営耕地面積からみた担い手」を見るには、地域によって差はありますが、たとえば、「5ha以上の農家」を「担い手」と判断するような見方をすることになります。どの規模以上を「担い手」と見るかは営農種類や地域の実情によって判断する必要があります。しかし、この指標は少ない耕地で高所得を実現しているような施設園芸や畜産経営が多い地域では必ずしも適切であるとは言えません。

A農産物販売金額規模別農家数(農産物販売金額規模別分類)
 農産物販売金額規模別農家数は、農業生産活動の成果としての農産物販売金額で農家の規模を分類していますので、ここから「担い手」をつかむことができます。この指標が有効なのは経営耕地をほとんど持っていない施設型農業経営もこのなかでみることができるということです。ここでいう農産物販売金額とは、過去1年間の農産物販売粗収入のことですので、経費を差し引いたあとの実収入(所得)とは異なります。したがって、「担い手」の目標所得を750万円として所得率が5割程度だとすると、「農産物販売金額1,500万円以上の農家」を「担い手」と判断するというような見方をします。ただし、農産物の価格変動の影響を受けるので価格変動が激しい時期には使いにくいという弱点があります。どの階層以上を「担い手」とするかは、@と同様、地域の実情や経営組織などをみながら決めていくことが必要です。

B主副業別農家数
 農家の所得と保有労働の両面から、農家を分類するものとして主副業別農家分類があります。この分類で、「担い手」として位置付けられているのが「主業農家」といわれるものです。主業農家は、農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所得の農家)で、65歳未満の自営農業従事60日以上の者がいる農家と定義しています。いわば生活の基盤の大半を農業に置いているという農家です。この主業農家のうち「65歳未満の農業専従者がいる農家」という分類も行っており、この農家は所得基盤も日常の就業状況も過半が農業という農家であるので、より絞り込んだ「担い手」と位置付けてよいでしょう。「食料・農業・農村基本計画」の見直しのなかで発表された「農業構造の展望」においてもこの「主業農家」を今後の重要な担い手層として位置付けています。なお、農外所得が主で、65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家を「準主業農家」、主業農家及び準主業農家以外の農家を「副業的農家」(農業所得に関係なく、65歳未満の農業従事60日以上の者がいない農家)に分類しています。

C専兼業別農家数
 一番なじみがある分類の一つで、専兼業別分類といわれるものです。農家世帯員のなかに農外に従事している人がいない農家を専業農家、農外に従事している人がいる農家を兼業農家と区分しています。通常、専業農家という言葉から受けるイメージは、大型で企業的にやっている農家というように受け止められますが、上記の定義からすると、たとえば、大型の農業経営をやっている農家であっても世帯員である子供が役場や農協等に勤めたりすると兼業農家に分類されますし、また、逆に高齢者が細々とやっていて子供も他出していて同居していない農家などの場合は専業農家に分類されることになります。こうしたことから、「担い手」としての専業農家という指標は現在ではあまり使われてはいませんが、一般に定着しているためこの分類による 集計結果を公表しています。なお、専兼業別分類では、専業農家のうちの「生産年齢人口がいる農家」と第1種兼業農家のうち「世帯主が農業主の農家」を合計したものを「担い手農家」と見てよいでしょう。

D農業労働力保有状態別農家数
 農業労働力保有状態別農家数には「65歳未満の農業専従者のいる農家」という指標があります。農業専従者とは1年間に自営農業に150日以上従事した者をいい、65歳未満の農業専従者のいる農家とは、高齢化しておらず農業を主として働いている人がいる農家という意味で、「担い手」として位置付けられる農家です。

E農業主従別農家数
 農業主従別農家数には「農業従事が主の農家」という指標があります。農家の家族経営構成員の自家農業従事日数の合計が、自営農業以外の仕事に従事した日数より多い農家を「農業従事が主の農家」としていますが、このなかでさらに「生産年齢人口がいる農家」という区分があり、年齢的にもこの農家群を「担い手」として位置付けることができます。

 以上、農業集落カード上で農業の「担い手」をどう把握するかを見てきました。実際は、どの統計指標や分類を選べばよいかということが問題となりますが、これは地域の農業実態に応じた使い方をする以外にはありません。たとえば、水田等の土地利用型農業が中心の地域であれば、経営耕地面積規模別分類を中心に使えばよいのですが、畜産や施設型農業が中心であれば、農業投下労働規模別分類や農産物販売金額規模別分類などを中心に使っていくことが必要です。いずれにしても、1つの統計指標だけで解決するということは無理がありますので、規模分類や労働力分類などを組み合わせて接近していく必要があります。
 さて次回は、農業集落カードの構成について見ていくことにします。また来月号より、統計関連の記事として、新たに「2005年農林業センサスの利活用とポイント」と題した特別記事を短期間連載する予定にしています。

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