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<<<   2006.12   >>>


☆★☆ 農業集落カードの変遷 ☆★☆

 統計利用についてのTipsやお奨めの統計データをご紹介するコーナーです。
 前号では2005年農林業センサスの主な改訂点と利用上の留意点を挙げました。本来ならここで2005年農林業センサスの結果概要をご紹介したいところですが、まだ一部の確定値しか入手できないこともあり、その辺りのご紹介は後日にしたいと思います。そこで今回は、先々月号の流れに戻って、農林業センサスの各種データについて見ていきます。少々過去に遡ってみることにしましょう。(^^;>
 農林業センサスデータで、長年のベストセラーを誇っている商品は何だと思いますか?答えは、データ量、出荷数ともに「農業集落カード」という商品がトップです。農業集落カードは、農林業センサスのデータを基に地域(農業集落)の概況を把握するためのデータとして1970年から5年毎に提供されています(2006年12月現在で最新版の農業集落カードは2000年世界農林業センサスのものです。2005年農林業センサスデータでの農業集落カードの提供は2007年度の予定です)。
 農業集落カードは、以前に申し上げました(メールニュース第6号)ように、「農業集落カード」という統計調査があるのではなく、各センサスの農家調査と農業集落調査のうち農業集落に関する主要な項目をカード形式にしたものです。ただ正確にいうと、農業集落調査は10年毎(西暦末尾ゼロの年)に行われていますので、中間年次は、農家調査のデータだけで構成されている年次もありました。また細部では一部参考値として国勢調査のデータ等が掲載されている場合もあります。
 それでは各年次の農業集落カードとその特徴などを見てみましょう。

@1970年世界農林業センサス・農業集落カード
 1970年版の農業集落カードが最も古い農業集落カードになります。これ以前については農業集落カードという形式では提供されていません。ただし1970年版の農業集落カードには、一部の項目について、10年間の動向が見られるように1960年及び1965年センサスデータが収録されています。
 ちなみに最初のセンサスは、1950年世界農業センサスになります。ただし1950年センサスは農業事業体調査(農家調査及び農家以外の事業体調査、農家以外の事業体という用語は1950年センサスからのもので、それ以前は「準農家」という用語でした)と抽出農家調査のみでした。農業集落調査は1955年の臨時農業基本調査からで、1955年の農業集落は「農家が農業上相互に最も密接に共同し合っている”農家集団”である」と定義されています。
 そして、1970年センサスでは1955年の定義を踏襲しつつ、さらに農業集落形成のより基本的な要件に着目し、集団形成の土台には農業集落に属する土地があり、それを農業集落の領域と呼んで、この領域の確認に力点を置いたものになっています。より属地的に捉え、一定の土地(地理的な領域)と家(社会的な領域)とを成立要件とした農村の地域社会であるという考え方をとり、これを農業集落としたわけです。この考え方は1970年センサス以降のセンサスも踏襲しています(ただし、市町村が管理する行政上の集落とセンサスの農業集落は一致しない場合があります)。
 1970年版で提供される農業集落カードのボリュームも現在に比べると少なく、B5判の用紙2枚に記載されていた項目には、総人口、総戸数、農家数、類型別農家数、農家人口、農業就業人口、就業状態別世帯員数、経営土地面積、作物類別面積、家畜飼養頭羽数、養蚕、農用機械台数、集落の立地条件、自然条件、分析指標などでした。現在と比べて、目立つものとしては、集落成立の時期(明治以前/明治以後/戦後開拓)、構造改善事業、土地改良事業の有無、耕地10アール当たりの売買価格や転用価格、男女別田植賃金といったものが挙げられます。なお農業集落カードの提供方法はマイクロフィッシュからのハードコピーでした。

A1975年農業センサス・農業集落カード
 1975年センサスは1970年センサス結果を時系列に連続性を確保するとの考えのもとで1970年センサスで定めた農業集落の領域を原則として踏襲しています。そのため農業集落カードの構成は、農家調査の掲載項目について、1960年、1970年、1975年の3年次分の時系列データが収録されています。また1972年(昭和47年)に本土復帰を果たした沖縄県の農業集落カードも収録されています。ただし沖縄県と他県の農業集落カードの項目は、異なります。

B1980年世界農林業センサス・農業集落カード
 農業集落の定義は、1980年センサスにおいても1955年センサスの定義が踏襲されています。1980年農業集落カードは、1980年センサスの農家調査及び農業集落調査の結果を「農村の地域社会における最小の単位」である農業集落を単位として統合整理し、その主要項目を掲載するとともに、時系列比較を可能にするため、1970世界農林業センサスおよび1975年農業センサスの結果の主要項目も併せて掲載したものになっています。農業集落カードの掲載ボリュームも大きくなりB5判3枚で、ほぼ最新の2000年版のカードに近い形式になっています。また提供形式も当時流行の兆しが高まってきたパソコン等での利用を考慮したフロッピーディスク等でのデータ提供に対応しています。

C1985年農業センサス・農業集落カード
 1985年農業集落カードは1980年の形式を踏襲し、農家調査の農業集落別結果を編集し、時系列比較が可能なように1975年農業センサスおよび1980年世界農林業センサスの結果の主要項目も併せて掲載しています。

D1990年世界農林業センサス・農業集落カード
 1985年までの農業集落カードでは時系列比較を可能にするために、3年次分の時系列データを掲載していましたが、1990年の農家調査結果については、農家の下限の変更、二段階区分、自家農業に「農作業受託」を加えた「自営農業」という概念の導入に伴い、1990年センサス結果の農家分類によるデータを主体に掲載し、1985年農業センサスのデータは参考値として1990年センサスの定義で組み替えたものを掲載する形になっています。
 農家の下限の変更とは、1985年センサスで、農業事業体の定義が、「経営耕地面積は、東日本(北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、新潟県、富山県の14都道府県)では10アール以上、西日本(東日本以外の33都道府県)では5アール以上の農業を営む事業体もしくはその規定に達しないものでも調査期日前1年間における農業生産物の総販売額が10万円以上であること」であったものが、「経営耕地面積が10アール以上もしくはその規定に達しないものでも調査期日前1年間における農業生産物の総販売額が15万円以上であること」になったことです。つまり、農家の下限を全国一本に統一しました。なお、農業生産物の総販売額の下限は、1950年、1955年センサスでは1万円、1960年センサスでは2万円、1965年センサスでは3万円、1970年センサスでは5万円、1975年センサスでは7万円、1980年、1985年センサスでは10万円、1990年以降は15万円と変遷しています。また二段階区分は、1990年センサスより農家を「販売農家」と「自給的農家」に区分したため、販売農家と自給的農家を合わせたものを「総農家」として、その内数として販売農家を表示するという形式に変わりました。

E1995年農業センサス・農業集落カード
 1995年農業センサス・農業集落カードの特徴は、農家調査結果の主要項目を掲載するとともに1970年センサス以降の農家調査結果、分析指標を併せて掲載し、農業施策の推進や地域分析の基礎指標として、幅広く活用されることを目的として作成された大変意欲的な統計資料となっています。つまり1995年の農業集落で1970年まで遡って組み替え可能な項目はすべて収録されています。また1995年農業集落カードから、パソコンでの利活用に対応するため、検索システムを収録した形のCD−ROMでの提供も開始しています。

F2000年世界農林業センサス・農業集落カード
 2000年農業センサス・農業集落カードの特徴は、農業・農村の諸情勢の変化の中で農業集落の現状や構造変化が把握できるように1995年と同様に1970年センサス以降の農家調査結果、および2000年の農業集落調査結果を併せて掲載しています。

 今回ざっと農業集落カードの概要の変遷を見てきましたが、これは農業集落カードのほんの一部にすぎません。次回は農業集落カード活用の魅力はご紹介したいと思います。