統計利用についてのTipsやお奨めの統計データをご紹介するコーナーです。
前号のメールニュースの内容から若干飛躍しますが、最近確定値の一部が公表された、2005年農林業センサスについて、前回(2000年)からどう変わったか、を見てみましょう。
まず、変わった点ですが、おおまかに言えば調査内容になります。農家の定義は変わっていませんが、調査の対象が、従来の農家という世帯単位の把握を行ってきたものから、農業経営体に着目した把握に変わりました。工業統計等の事業所統計に近づいたことになります。
平成17年3月25日に閣議決定された「新たな食料・農業・農村基本計画」の中の「品目別の価格・経営安定対策から地域農業の担い手の経営を支援する品目横断的な政策への移行」を受けたもので、2005年農林業センサスの農林業経営体調査の主な変更点は以下の3点です。@農林業経営を的確に把握する見地から、これまでの世帯(農家及び林家)に着目した調査を経営に着目した調査に改めました。A法人化、集落営農等を含む農業経営の組織化の動きを的確に捉えるとともに、担い手に関するデータを迅速に提供することにより各種経営政策の展開に資する見地から、個人、組織、法人等多様な担い手を一元的に横断的に捉える調査体系に改めました。B地域における農林業の実態を総合的に捉える見地から、従来の農業に関する三つの調査(農家調査、農家以外の農業事業体調査、農業サービス事業体調査)、林業に関する三つの調査(林家調査、林家以外の林業事業体調査、林業サービス事業体等調査)を統合して、「農林業経営体調査」として一本化しました。
2005年センサスは、主に調査体系の統合ということをやっています。つまり地域というものを農業だけでなく、林業も含めた「農林業」として総合的に捉えるという方向にして、従来、農家は5年毎のセンサス、林業は10年毎のセンサスで調査していたものを「農林業」として、5年毎に行ことにしています。
さて「経営体」という言葉ですが、農業経営体は、2000年センサスの農家(世帯)、農家以外の事業体(法人事業体や集落営農を含む生産組織)、農業サービス事業体を合わせたものになります。また林業経営体も、2000年センサスの林家(世帯)、林家以外の事業体、林業サービス事業体を合わせたものになります。どうしてこのようなことが必要なのでしょうか。2000年までは、世帯(個人)と組織を区別して調査していました。ですから、集計結果も調査ごとに公表されていて、一部には各調査の合計の統計表も公表されてはいましたが、基本的には地域の総資源量をみるためには、3つの調査を利用者が集計する必要がありました。しかし法人化、集落営農等を含む農業経営の組織化の動きを的確に捉えるとともに、担い手に関するデータを迅速に提供することにより各種経営政策の展開に資する見地から、個人、組織、法人等多様な担い手を一元的に横断的に捉える調査体系に見直されたわけです。それ以外の統合では「農林業・農山村の有する多面的機能を総合的に明らかにするため」として、農業集落調査と林業地域調査を統合して、「農山村地域調査」を実施するなどの見直しが行われています(ただし、従来の農業集落調査のうち、「農村地域社会のコミュニティ活動、集落機能に関する調査」は「農村集落調査」として別途実施されています)。
それでは農林業経営体調査の対象となる調査対象には従来からどのように変わったのでしょうか。
農林業経営体調査では、農林産物の生産を行うか委託を受けて農林業作業を行っている方で、生産・作業に係る面積・頭数が一定規模以上(外形基準)の農林業生産活動を行う方(組織の場合は代表者)を対象としています。また一つの世帯・組織に調査対象としての基準を満たす方が複数存在する場合はそれぞれの方を対象とします。さてこの一定規模:基準には注意が必要です。農家の定義そのものは変わっていませんが、調査対象の特定のため部門別により細かい基準が定められています。それが外形基準です。
たとえば農業の調査対象は、経営耕地面積30a以上または下記の外形基準を満たすものとしています。どうしてこのような基準が設けられたかというと、従来の調査対象の基準に使われていた販売金額規模という基準が変動性の高い基準だったためです。そこで、2005年では見直しが行われ変動性の低い外形基準が導入されました。
農業の外形基準は、以下のとおりです。
部門別経営規模
露地野菜 :露地野菜作付面積が15アール以上
施設野菜 :施設野菜栽培面積が350平方メートル以上
果 樹 :果樹栽培面積が10アール以上
花き(露地) :露地花き栽培面積が10アール以上
花き(施設) :施設花き栽培面積が250平方メートル以上
搾乳牛 :搾乳牛飼養頭数が1頭以上
肥育牛 :肥育牛飼養頭数が1頭以上
豚 :豚飼養頭数が15頭以上
採卵鶏 :採卵鶏飼養羽数が150羽以上
ブロイラー :ブロイラー年間出荷羽数が1000羽以上
その他:調査期日前1年間における農業生産物の総販売額50万円に相当する事業の規模
さらに林業の外形基準は「林業生産を行う場合にあっては、保有山林面積が3ha以上で、かつ、5年間(平成12年2月1日から17年1月31日までの間)継続して育林若しくは伐採を行った人または調査実施年をその計画期間に含む森林施業計画を作成している人としています。また、委託を受けて素材生産を行っている方又は立木を購入して素材生産を行っている人にあっては、過去1年間の素材生産量が200立方メートル以上であることとします。素材生産サービス以外の林業サービスについては農業サービスと同様に外形基準を設けていません。加えて、農林業経営体というからにはありえるケースなのですが、農業と林業の両方を行っている場合の外形基準は、農業または林業のどちらかを満たしていれば対象ということにするとあります。
さて外形基準について説明してみましたが、あまり難しく考える必要はありません。たとえば農業の外形基準を例にとると、細かい基準の設定はありますが、言い換えれば、「経営耕地面積30a以上」という定義は、「販売農家」の定義です。また外形基準は2000年時点の農産物販売金額50万円以上という基準が、より実態に即した基準として付加されたものですので、「調査の対象は販売農家です。ただし一部の部門については細かい基準があります」と読み替えてみるとよいでしょう。
ところで、対象農家が販売農家のみとなると、調査結果として提供されるデータには、1990年から2000年までに存在した自給的農家は実査の対象外ということになりましたが、調査客体名簿からの集計値が公表されることになっています。ただし、総農家区分と自給的農家区分については、基本的な指標のみに限定しています。したがって、農林業経営体調査の農家については、2005年以前のセンサスデータと時系列に接合しようとすると、販売農家区分での接続が基本になりますので注意が必要です。