統計利用についてのTipsやお奨めの統計データをご紹介するコーナーです。
さて、今号は、前回登場した属人統計という用語について注目してみましょう。前回の復習になりますが、それぞれの意味は、次のとおりです。「属地統計」とは、例えば作物が生産された場所別に集計される統計のことをいい、「属人統計」とは作物を生産した人の所属する場所別に集計される統計をいいます。
農林水産省関連で属人統計の代表格といえば、「農林業センサス」といっても過言ではないでしょう。センサス(Census)の語源は、古代ローマにおいて市民の登録(人口調査)や財産の評価などを行う役人であると言われています。日本でも国勢調査に代表されるような、通常すべての客体を調査対象とし、個々の客体について調査票を用い、全般的な多項目にわたる調査を行うことを意味しています。
農林業センサスの代表的な客体は、「農業事業体」になります。2000年世界農林業センサスを例にとると。農業事業体は、さらに「農家」と「農家以外の事業体」に区分されます。「農家」とは、「経営耕地面積が10アール以上の規模の農業を行う世帯または経営耕地面積が10アールに達していなくても調査期日から過去1年間の農産物の販売金額が15万円以上の世帯」となっています。
また「農家以外の事業体」は『農家』以外のものをいい、株式会社、有限会社、その他の会社、農協、その他の農業団体で法人格を有するもの、任意組合、国・地方公共団体、学校などに分類されます。もちろんおのおのについて「農家調査」と「農家以外の事業体調査」という調査があります。またセンサスの調査方法は農家や農家以外の事業体を対象に調査票を配布し、自計式で記入(申告)してもらう方式をとっています。
お気づきでしょうか?センサスはセンサスという1本の調査があるのではなく、複数の調査から構成されています。因みに2000年世界農林業センサス下でも、農業事業体調査(農家調査、農家以外の事業体調査)、農業サービス事業体調査、農業集落調査(西暦年末尾ゼロの年次のみ)の4調査があります。
センサスでよく勘違いされて、利用者の方から指摘を受けるところがあります。例えばA集落で農家があるのに(お電話の先で農家本人が言っているんだから間違いないと...(^^;>)、どうして農家調査のA集落には農家が無いことになってるんだ、というお叱りを受けることがあります。この問題の答えは、農家調査以外の調査で調査されているために農家調査の結果に反映されていないというケースです。つまり農家ではあるけど、集落営農等で農家以外の事業体として扱われているために、農家調査の調査対象外になってしまっているというケースです。
センサスは全数調査というところが目立ってしまっているせいかもしれないのですが、中味をよく吟味してみると、素人には分かり難い部分も多々あります。たとえばよくあるお問い合せの事例で、全国の耕地面積が知りたいけど、センサスのデータでいいのかというものです。少し押しつけがましい部分もあるとは思いますが、統計データの利用は、どういったスタンスで数字を知りたいかということに尽きます。国土としての耕地面積を知りたいのか、耕地の状況や経営耕地の構造を知りたいのか、で利用する統計も違ってきます。例えば国土としての全耕地面積を知りたいといった場合、センサスでは不十分な場合もあります。というのは、センサスは調査対象によって、複数の調査に分かれて数字が計上されているという点がありますし(農業事業体調査・農家調査、農家以外の事業体調査:経営耕地面積・耕作放棄地面積、農家調査・世帯用照査表からの調査結果:土地持ち非農家の耕地面積。なお調査結果は提供されている地域単位が異なる場合があり、地域単位によっては公表されていない項目もあります。また「土地持ち非農家」という用語は汎用的なものではなく、農林水産省が公表している統計表名では、「耕地及び耕作放棄地を5a以上所有している世帯数と面積」となっています。またこの統計データは農家調査の報告書に付属したデータとなっていますので、探す時には注意が必要です。)、属人統計ということで、調査対象の自計式によるものだという点もあります。センサスだけで国土の耕地面積を知ることは難しく、耕地及び作付面積統計などの属地統計の結果と乖離している場合もあります。だからといってセンサスが役に立たない統計というわけではなく、耕地の構造的な関係を知るためには欠くことのできない資料です。経営耕地面積だけみても、地目別に詳細な調査項目を提供していますし、経営耕地面積規模別農家数など農家と土地規模との関係、農産物についても作物、野菜、果樹の主要品目について作付面積(前述のように耕地及び作付面積統計など属地統計の調査結果とは調査方法等が異なるため、値が一致しない場合があります。)など多彩なデータを提供してくれます。
農林業センサスでは他省庁の統計に比べて、より細かい地域(小地域)の統計として、旧市区町村単位や農業集落単位のデータが提供されています。しかし小地域単位のデータも細かく見ていくと難しい部分もあります。
よくある勘違いで、「センサスは全数調査だから全ての調査結果が公表されている」と思われがちですが、正確には誤りです。全国や都道府県という個人情報に触れる可能性が極めて少ない地域(表章)単位では、問題ないのですが、市町村や旧市町村、さらにそれより細かい単位の農業集落という単位の場合は、地域によっては個人情報が明らかになってしまう場合があります。その場合は秘匿措置ということで公開されないものもあります。また当然のことながら「農家」という単位では統計情報は、公開されません。農林業センサス(2000年時点)でもっとも細かい地域単位は農業集落です。
例えば、当会が提供しているセンサスデータに農業集落カードと農家調査一覧表というデータがあります。農業集落カードは、センサスの農家調査データと農業集落調査データから「農業集落の概況を把握するため」の主要な項目をカード形式で提供したものです。このカードデータには、提供時点の農業集落の領域で、1970年まで遡って、2000年時点の項目で組替え可能な項目は時系列データで提供しています(各年次の農業集落カードのデータが収録されているという意味ではありません)。
秘匿との関係でみると、農業集落カードは、農家調査で総農家数が5戸以上の集落のみのデータとなっています(総農家数が5戸未満の集落は農業集落カードがありませんし、新市町村計及び旧市区町村計のデータもありません)。
さらに農家調査一覧表は、農家調査の全データが収録されているデータです。よく農業集落カードと農家調査一覧表のどっちを購入すればいいのかというご質問をお受けすることがありますが、これもデータをどう捉えるかというスタンスによって変わってきます。つまり農業集落カードと農家調査一覧表の使い方は、農業集落カードで地域の概況をつかみ、農家調査一覧表で、詳細な農業構造を掘り下げるという関係にあるからです。農業集落カードの提供項目と農家調査一覧表の提供項目を比較してみても、例えば農業集落カードでは、「野菜類」や「果樹類」といったレベルの作物類別作付面積はありますが、農家調査一覧表にあるような「だいこん作付面積」、「にんじん作付面積」といった販売目的で作付(栽培)した作物の作物別作付(栽培)面積はありません。『概況』と『詳細』で見ています。農家調査一覧表は、秘匿関係でみると、農業集落カードと比べて少し複雑です。農家調査一覧表の場合は、農業集落カードと違い、農業集落別のデータの他に新市区町村計と旧市区町村計が収録されています。秘匿対象となっている集落であっても基本的には「総農家数」は公開されますが、以下の条件下では総農家数を除く全ての項目が秘匿されます。「@農業集落の総農家数が4戸以下の場合」、「A旧市区町村の総農家数が2戸以下の場合」、「B新市区町村の総農家数が2戸以下の場合」です。また農業集落、旧市区町村、新市区町村の各レベル毎に秘匿地域が1地域のみだった場合は、秘匿の掛からなかった地域のうちで総農家数が最小の地域を『共連れ』と称して秘匿しています。つまり旧市区町村計と農業集落の計から秘匿となっている集落の数字を割り出せないように秘匿しているわけです。また秘匿対象となっていない地域でも対象項目の該当農家数が少ない場合は面積や飼養頭羽数が秘匿される場合があります。
2000年時点のセンサスでもかなり複雑なのですが、少し視線を変えて、次回は、先日確定値が公表された、2005年農林業センサスについてみてみましょう。