とうけいチップス



<<<   2006.09   >>>


☆★☆ 統計の接合 ☆★☆


 統計利用についてのTipsやお奨めの統計データをご紹介するコーナーです。
 さて、今号は統計の接合についてです。前号で有用多種な統計データを入手できることはおわかりいただけたと思います。ところで、異なる統計や異なる年次の統計を利用して自分が望む資料を作りたい場合、何か注意することはあるでしょうか。
 もちろんあります。最も重要なことは統計毎の調査方法・内容を知っておくことです。異なる統計を接続する場合は、調査方法・定義と掲載されている情報量にも注意する必要があります。同じ市町村別統計でも、生産農業所得統計のように全市町村が掲載されているものもあれば、野菜生産出荷統計のように主要市町村が掲載されているものもあります。野菜生産出荷統計の主要市町村の定義は調査品目毎に、都道府県の出荷量の概ね80%を占める市町村という意味です。また実査値のものあれば、推計値のものもありますので、地域別の数字をカット&ペーストで貼り付けて、資料を作るだけでなく、それぞれの数字の性格(素性)も明確にしておくことが必要です(くどいようですが出典や引用を忘れずに!)。それでは実際に統計の接合についての事例をみていきましょう。
 前号でとりあげた生産農業所得統計を例にとって、「同じ統計の時系列接合」と「異る統計の時系列接合」についての注意点等をみていきます。

例)生産農業所得統計

○同一の統計内の時系列接合
 同一の統計内の時系列接合の最も簡単な方法は、その統計に長期累年統計データがあるかどうか確認することです。長期累年統計データがあれば、地域の変更や項目の変更といったバリアを簡単にクリアできます。前号で紹介した農林水産省統計情報総合データベースを利用されるときも、その点を注意しておくと良いでしょう。長期累年統計データが無い場合は、大変ですが、手作業で接合を行う必要がでてきます。例えば市町村別統計では、年次毎の市町村の合併に合わせて、データを組み替える必要がでてきます。市町村合併は2000年時点までではそれほど大きな変動がないのですが、平成18年3月末に完了した、いわゆる「平成の大合併」では多数の市町村合併がありましたので。組み替えの数も相当なものです。合併状況についてのサイト等を参考にしてください。

「都道府県市区町村」(サイト:今日は悠々日)
http://uub.jp/

 また項目についても統合や分割、あるいは項目削除というケースがあります。生産農業所得統計では、例えば「養蚕」という部門は平成13年までは独立した項目でしたが、平成14年からは「その他畜産」に含まれるようになっています。また削除された項目の例としては、平成16年から「農業専従者換算1人当たり生産農業所得」という参考値の項目が削除されています。前者の例では過年次(平成13年まで)分についてはその他畜産と養蚕を加算して、平成14年以降のその他畜産(養蚕を含む)に接合する必要があります。後者の例では平成16年以降との接合はできませんので、農業専従者のデータを別の統計から援用して指標を作成するしかありません。ただし農業専従者数に関しては5年毎に実施されるセンサスでしか調査されていませんので、年次の同期をとることはできません。あくまでも直近の調査値が変動していないという仮定で処理せざるをえなくなります(ある程度割り切って考えていい場合もあります。ただし割り切った場合は、どう割り切ったかの注釈をつけておく必要はあります)。

○異なる統計との時系列接合
 今度は例として、農林業センサスと生産農業所得統計を接合することを考えてみましょう。例えば2000年世界農林業センサスのデータに生産農業所得統計のデータをリンクさせる場合、何年の生産農業所得統計を合わせるのがベストだと思いますか?
 解答の前にそれぞれの統計の素性を見てみましょう。農林業センサスは農家を対象にした生産構造等に関する調査でいわゆる「属人統計」という部類に属します。これに対して、生産農業所得統計は、市町村や地域を対象にした生産額に関する調査で「属地統計」という部類に属します。属人と属地、かなり難しい用語が出てきました。属地統計とは、例えば作物が生産された場所別に集計される統計のことをいい、属人統計とは作物を生産した人の所属する場所別に集計される統計をいいます。属地統計は割と理解しやすいと思いますが、属人統計は難しいのではないでしょうか。属人統計の農林業センサスの数字を見る時に注意が必要なのは、例えば、A市の野菜の作付面積が10ヘクタールと統計書にあった場合、この数字はA市に10ヘクタールの野菜の作付地があるという意味ではなく、A市に野菜を10ヘクタール作付した農家がいるという意味になります。つまり実際のA市に住む農家の野菜作付地が他の市町村にあったとしても統計上はA市(A市の住む農家)の数字として集計されるということです。ですから属地統計と属人統計と接合する場合、単純に接合できないこともありますし、何らかの補正が必要なこともありますので注意が必要です。今回はそのような違いがあることを認識した上で、大まかに農業構造と所得(生産額)の関係を接合してみます。
 お待たせしました。それでは先ほどの質問に対する解答です。正解は1999年(平成11年)の生産農業所得統計です。それはおかしいだろう!と思われた方も多いと思いますが。これは、調査対象期間というものを確認しておく必要があるという事例です。まず2000年世界農林業センサスは、何が2000年なのかというと、これは調査時点が2000年(2000年2月1日時点)という意味です。そして対象は「農家」で、この農家の定義が、「平成12年2月1日(沖縄県は平成11年12月1日)現在の経営耕地面積が10a以上の農業を営む世帯及び経営耕地面積がこの規定に達しないか全くないものでも調査期日前1年間における農産物販売金額が15万円以上あった世帯」となっています。つまり、平成11年〜平成12年の過去1年間の農家を対象としていることになります。
 一方、1999年生産農業所得統計の農業産出額の定義は、「推計期間(平成11年1月1日〜12月31日)における農業生産活動による最終生産物の品目毎の生産量に品目毎の農家庭先価格を乗じた額を合計したもの」となっています。したがって正確にぴったりということにはならないのですが、対象としている期間を考慮すると、2000年世界農林業センサスと接合可能な生産農業所得統計は1999年の統計ということになります。単純に年次だけでデータを接合してしまうと、データとしては1年以上ずれた値となってしまうことになりますので注意が必要です。